米国ツアー並みの
超高速グリーンと挑戦意欲を
駆り立てる屈指の難コース

メジャー最高峰に位置する「全米オープンゴルフ選手権」は世界中のトップゴルファーが集結するため、“ゴルフのオリンピック”とも言われている。今年の大会は米国でも最古のゴルフ場、ニューヨーク州ロングアイランド郊外にある「シネコックヒルズGC」で行われた。このコースはスコットランドのリンクスと米国の近代スタイルを融合したモダンクラシックコース。すでに過去5回の全米オープンを開催している。

特に「ガラスのグリーン」と形容される高速グリーンが、スリルとエキサイティングに富み、数々のドラマを生み出してきた。

今年は、昨年の覇者、ブルックス・ケプカ(米国)が、正確なショットと巧みなパッティング技術を駆使して、この超高速グリーンを攻略し、見事連覇を遂げた。

マスターズの開催コース、オーガスタ・ナショナルGCを始め、米国のコースは高速グリーンが当たり前で、これが選手のレベルを上げ、常にエキサイティングなゲームを演出し、ファンを堪能させている。

しかし、残念ながら日本にはこうしたコースはほとんど無く、それが日本のプロがいつまでたっても世界で通用しない大きな原因となっている。そんな中で唯一世界基準のコースとして注目されているのがカレドニアン・ゴルフクラブ(千葉県)である。

同コースは2014年から「マスターズ並みの14フィートに挑戦」というスローガンを掲げ、実際に日本のコースではありえない超高速グリーンを現実化している。ちなみに昨年12月から今年6月までのデータでは、12フィートから13フィートを連日記録。これは日本の男子レギュラーツアーでは平均11~12フィート、女子ツアーは10~11フィート、米男子ツアーが12~14フィートなので、同コースの会員や訪れたゲストは日本のプロツアーより速く、米ツアー並みのスピードのグリーンでプレーしていることになる。

ただ速いだけではない。蓮の葉を何枚もつなぎ合わせたような起伏や、うねりのあるグリーンは、ホールによって縦長や横に広がる様々な形状でショットの難度を高める。どことして平らなところのないフェアウェイ。ポットバンカーも含めた深くて様々な形状のバンカー群。ショットに威圧を与える池やクリークが随所に待ち構える。

世界レベルのゴルフコース設計の原点となる「レダン」(グリーンを右手前から左奥にかけて45度の角度に位置させ、ピンの位置でクラブ選択やショットに選択肢を持たせる)、「グランドレベルグリーン」(地形を活かした自然のマウンドの上にグリーンを置き、微妙な傾斜のため、落とし所を間違うとバンカーやラフに流れこんでしまう)、「アルプス」(グリーンの手前にマウンドを造り、セミブラインドの山越えにして、距離感、弾道に決断を促す)、「フォールアウェイグリーン」(後方部が下がったグリーンでボールの落とし所次第で大きなミスにつながる)など、欧米の名コース(難コース)では当たり前だが、日本ではほとんど見られない設計がここでは随所に施されている。

代表自らがゴルフの聖地巡り

特筆すべきはこのカレドニアンGCが誕生したのはバブル経済真っ盛りの1990年ということだ。当時は景気の波に乗ってゴルフ場の建設ラッシュがピークに達していた。それも投資と接待ゴルフ目的で、質は二の次。接待族に妥協し、豪華ではあるが、誰もが易しく回れるコースが重宝がられた。そんな中で、欧米レベルのモダンクラシックコースのカレドニアンGCは「世界名コース選考委員会」のセレクターから高く評価されてきた。

だが、これには理由があった。創設者の早川治良社長は建設にあたっての確たる理念があった。それは、「日本のゴルフが欧米に比べて大きく劣るのは、世界基準のゴルフ場が無いため。日本の質を高めるためにも、世界を見据える若いゴルファーのためにも世界レベルのコースを絶対に造らなければ日本のゴルフ界に未来はない」との信念で、バブル経済の流れに真っ向から立ち向かったといういきさつがある。

この建設にあたっては当時欧米のゴルフ界と密接な交流を持つゴルフ評論家でコース設計家でもある金田武明氏と、ゴルフ史家の摂津茂和氏(共に故人)の強い影響もあった。

日本では2グリーンが主流だった当時、金田氏は「ゴルフコースはターゲットゲームの本質からして、絶対に1グリーンでなければならない。それも単調ではなく、ゴルフの本質を引き出す複雑で速いグリーンこそが将来の主流となる」と助言し、摂津氏は「ゴルフの原点はスコットランドのリンクス。そのホンモノを知らずして、コースを造る資格はない」と厳しいアドバイスを早川社長に送っている。

この言葉を受けて早川社長はスコットランドを中心に、欧米の名コースをつぶさに視察。全英オープン会場で知られるスコットランドのロイヤル・トルーンGCを訪れた時、そこに飾られていた「TAM ARTE QUAM MARTE」の標語に魅入られた。

この言葉はローマ軍が掲げたラテン語の勝利への方程式で、ゴルフに例えれば「ゴルフは自然との闘い。攻略するには、力だけでなく、頭脳、知性、精神力、人間力のすべてを必要とする高尚なゲームである」という格言である。

早川氏は「これこそゴルフの本質を言い当てた言葉」と天啓に打たれ、同コースのセクレタリーに頼み込み、許可を得て、カレドニアンGCのモットーとして採用、今日に至っている。

そして最終的に選んだのが、スコットランドの影響を受け、これに現代感覚を融合させてモダンクラシックコースの設計では右に出る者がいないといわれる世界的なコース設計家J・M・ポーレット(米国)である。ポーレットは期待にたがわず彼の代表作の一つと言われるコースを日本に誕生させた。

高速グリーンの裏に弛まぬ努力

早川社長は超高速グリーンの実現にまずスタッフの「人づくり革命」からはいった。従来からの固定概念から脱却し、未知の世界に挑戦するために経験的メインテナンスから科学的メインテナンスへの移行と、どこかで常識を破って限界を突破する勇気を、忍耐強く時間をかけて持たせたのである。

人間の英知をスタッフにいかにして植えつけるか。それには上からの指示に従うだけではダメで、自分自身で観察力を養い、問題点と解決方法を考察して実行する(自立)、自分を磨き、やるべき仕事について深掘する(研究)、より良い方法や手段がないか、自分の頭で考えてそれを得る(工夫)。

一人ひとりのこうした自覚と蓄積が大きなパワーとなって不可能を可能にする。それを基にして、コース管理スタッフの血の出るような研究と努力が14フィート超高速グリーンを生んだのである。

冒頭の全米オープン会場のシネコックヒルズの改造にも手を染め、アメリカの「ゴルフコース設計の父」と呼ばれたチャールズ・マクドナルドはこんな言葉を残している。「ゴルフコースの性格は一にパッティンググリーンの構造にかかっている。コースにおけるグリーンは、いうなれば肖像画における顔である。顔のみが真実を伝え、性格を表現し、絵の価値を決定する。ゴルフコースにおいてもまた然り」

ゴルファーの脳を痺れさせるような高速グリーンを中心に、リスク&リウォード(危険と隣り合わせの報酬)がコース全体に展開されるカレドニアンGCは、人間の本質を見事に捉えたコースといえる。

凡庸なコースでは味わえないスリルとエキサイティングに富んだカレドニアンGCに訪れるゴルファーが後を絶たないのは、人間の本能に訴えかける“魔力”がその深奥にあるからだ。

『ZAITEN GOLF 2018 秋』11月臨時増刊号より

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